「問題提起」の創造的判断における考察 -(2020)最高法知行終No. 183

【裁判要点】

特許技術ソリューションの進歩性は、「問題解決」または「問題提起」から生まれる。先行技術の進歩の難しさが問題の発見にある場合、「問題提起」が当業者にとって明白であるかどうかを考慮しないと、後知恵に陥り技術ソリューションの進歩性を過小評価する可能性がある。

【案件概況】

国家知識産権局は、第38122号無効宣告請求審査決定(以下「被訴決定」という)において特許番号ZL201520653490.5、発明名称「ジンバル」の実用新案権のクレーム1および6が無効であり、クレーム 2-5および7-18にかかる実用新案権の有効性を維持した。
 大疆社は、この実用新案権が先行技術では気付かなかった技術的問題を発見して解決し、有益な技術的効果を達成し、進歩性あると主張して、被訴決定を受け入れることを拒否した。
 クレーム1および6の技術ソリューションによれば、かかるジンバルは、ピッチ軸構造またはロール軸構造に設けられたロック構造を利用して、ピッチ軸構造またはロール軸構造上のモーターがジンバルの非作動状態のときに不本意の転動を防ぎ、ジンバルの非作動状態における確実な位置固定を実現する。上記の構造の独創的な設計により、先行技術にあるジンバルの非作動状態では固定されていないまたは複雑な構造の問題が解決され、それにより、ジンバルの保管およびユーザの携帯および使用が容易になる。
 上記技術手段は、この特許が公開される前に、いずれの技術情報や他の方式に開示されたことがない。したがって、この特許の請求項1および6は、新規性と進歩性を具備する。最高人民法院は2020925日に上訴を却下し、当初の判決を支持する判決を下した。
【審判の意見】

最高人民法院の第二審は、新たな技術課題の提起または先行技術にある技術的欠陥の発見を進歩性に関する判断に考慮すべきかどうかは、案件の具体的な状況に応じて決定されるべきであると判示した。
 ほとんどの場合、新たな技術問題の提起または先行技術にある技術的欠陥の発見が発明創造の動機と出発点であり、発明創造の技術ソリューションの形成と「技術課題の提起」の間には直接的な因果関係がある。
 ほとんどの場合、技術問題の提起と発見は簡単であるが、問題への技術ソリューションを見つけることは比較的困難である。
 ただし、特定の状況下では、「問題の解決」よりも「問題の提起」と「問題の発見」の方が重要である可能性があることを排除するものではない。
 技術進歩の難しさは、問題を見つけることにある場合があり、解決すべき問題が決まったら、それは、その分野における従来の技術的手段の組み合わせ、類似の技術分野間の技術転用、論理的な技術的推論、限られた回数の試験などにより、技術的な問題を解決するための技術的な解決策を見つけられる。
 この特定の場合、進歩性の判断には、「問題の提起」は当業者にとって容易であるかどうかを考慮しないと、後知恵の誤りが生じる可能性がある。
 本案件の場合、この特許は、ジンバルのモーター軸が「非作動状態」にあるときにロックするという特定の技術的問題を提起した。ジンバルがモーター調整角度範囲外の「非作動状態」にあるときに、このタイプのジンバルの「自由にスイングし、保管・持ち運び・使用に不便」の欠陥は明らかであり、直接見つけることができる。当業者、ましてジンバルのユーザーでもこの欠陥は、ジンバルを「非作動状態」でロックできないという技術的な問題によるものだと自然に思いつく。
 したがって、大疆社の「この実用新案権が先行技術では気付かなかった技術的問題を発見して解決し、有益な技術的効果を達成し、進歩性ある」との主張は、「問題の提出」のみからみれば、先行技術が対応する技術的啓発を与えたと判断されるべきである。

最高裁判所の知的財産法廷の報告書による

2021813


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