公知常識的証拠への認定 -(2020)最高法知行終No. 35
2025-04-27
【裁判要旨】
公知常識的証拠とは、通常、技術辞書、技術マニュアル、教科書など、その分野の基本的な技術知識を記録した文献を指す。技術辞書、技術マニュアル、教科書以外の文献が公知常識的証拠であるかどうかは、文献キャリアの形式、内容と特性、対象者、伝播範囲などの要素により具体的に認定する必要がある。
【基本事情】
上訴人の国家知識産権局(以下、CNIPAという)および被上訴人の江蘇標的生物医薬研究所有限公司(以下、標的社という)、常州南京大学ハイテク技術研究院(以下、南大研究院)の間の発明拒絶査定をめぐる行政紛争案件は出願番号は201110187700.2で、発明名称は「腫瘍標的腫瘍壊死因子関連アポトーシスリガンドの変種とその応用」(以下、本出願という)に関する。
標的社と南大研究院は、『癌研究最前線』の第8巻は教科書でも技術辞書でもなく、癌研究分野の最新結果を総合的にまとめた論文集であり、公知常識的証拠ではないと主張した。
国家知識産権局による覆審請求への審査決定第116649号(以下、被訴決定という)では、公知常識的証拠だと認定したことに誤りがあり、北京知的財産裁判所(以下、第一審裁判所という)に訴訟を提起した。
第一審裁判所は、『癌研究最前線』の第8巻は腫瘍内科研究に関するジャーナルであると判断し、CNIPAは『癌研究最前線』の第8巻に記載された特定の技術的知識が公知常識であるかどうかを判断せずに、『癌研究最前線』の第8巻を公知常識的証拠として使用することに誤りがあると判断した。
CNIPAはそれを受け入れることを拒否し、最高人民法院に上訴し、『癌研究最前線』の第8巻はジャーナルではなく、ISSNのシリアル番号ではなくISBNの本番号しか持っていないと主張するとともに、被訴決定に引用されたNGR関連の技術的知識は最先端の進歩ではなく、この分野ですでによく知られている常識であると主張した。
最高人民法院は2020年8月13日、上訴を却下し、当初の判決を支持する判決を下した。
【裁判意見】
最高人民法院は、第二審では、公知常識とその証明方法について次のように判断した。
まず、関連技術分野の公知常識への認定は、その分野の一般技術者が持つべき技術知識や認知能力に直接関わり、創造性の判断に大きな影響を与える。
したがって、公知常識への認定に、それを裏付ける十分な証拠または理由がなければならず、恣意的なものを避けるべきである。
一般的に言えば、関連する技術知識が公知常識に属するかどうかは、原則として、技術辞書、技術マニュアル、教科書などの技術分野の常識的証拠によって証明することができるが、技術辞書、技術マニュアル、教科書などの公知常識的証拠をもって証明し難い場合、複数の特許文献、ジャーナル、雑誌など、その分野の非公知常識的証拠などをもって相互に印証し合うことができるが、この証明方式にはもっと厳格な認証基準に従うべきである。
第二に、公知常識的証拠とは、技術辞書、技術マニュアル、教科書など、この分野の基本的な技術知識を記録した文献を指す。反対の証拠がない場合は、技術辞書、技術マニュアル、教科書に記録されている技術知識は公知常識であると推定できる。
技術辞書、技術マニュアル、教科書以外の文書につき、記載される内容が公知常識的証拠であるかどうかを判断するには、文書のキャリア形式、内容、特性に基づいて具体的に特定する必要がある。
第二に、『癌研究最前線』の第8巻は公知常識的証拠であるかどうかについての具体的判断。
まず、キャリア形式からみて、『癌研究最前線』の第8巻は図書である。
『癌研究最前線』の第8巻のCIPは、その図書番号がISBN978-7-81086-559-3であることを示す。ISBNは国際標準の図書番号で、我が国では長年使用されてきたので、『癌研究最前線』の第8巻は図書だと認定すべきである。第一審では、それがジャーナルであると判断することには不正確で修正されるべきである。
第二に、内容と特徴からみて、『癌研究最前線』の第8巻はは図書であるが、一般的な教科書ではない。
この本の序文には、世界の癌研究の最新の進展を最もわかりやすい話で同僚や関連する研究者に紹介し、モノグラフ、レビュー、ポピュラーサイエンスの読み物、その他のドキュメントなどの形式があり、包括性、焦点的討論を特徴とすると書かれる。
これは、この本が癌研究の分野における一般的な技術的知識ではなく、世界の癌研究の最新の進展を紹介することを目的としており、通常の意味での教科書ではないことを示している。最後に、対象と伝播範囲の観点からも、『癌研究最前線』の第8巻が教科書に属していると判断することは難しい。
本の著作権ページの「はじめに」には、「この本は、関連する専門研究者の参考書として使用でき、大学や病院の関係者も読んで使用できる」と記載されており、通常の意味での教科書ではなく、専門的な研究担当者向けの参考書であることが示される。
さらに、この本が関連分野の研究者にとって一般的な参考書になっているという他の証拠もない。
以上のことから、『癌研究最前線』の第8巻は図書に属しているが、通常の教科書ではなく、公知常識的証拠として認められるには不十分であると結論付けることができる。
最高裁判所の知的財産法廷の報告書による
2021年8月16日